♪時にはコピーライターのように 4

ＣＭのオンエアが始まると、今までとは全く違う気持ちになってきました。確かにコピーライターとして仕事を続けていたので、自分のつくった広告を新聞で見たり、街中で見かけることはありました。新聞広告やポスターとしてです。あるいはラジオＣＭもクルマを運転していた時などには、偶然耳にすることはありました。でも、テレビＣＭは、自らが遭遇する機会がやたらと多かったのです。そこそこの出稿量でしたから、やはりそれなりに目にしたんでしょう。

それも企画から納品まで、あらゆるプロセスに自分が関わったわけですから、何だか、とーっても気になる。その気になっている部分というのが、明らかに『反響はどうなんだろう？』という気持ちだったわけです。もちろん心の中には「責任を取れ」なーんて、ほざいていたスポンサーのこともありましたし…。

さて気になる反響、というか来店客の増加や、売り上げのアップは？半分楽しみ、半分憂鬱、な気分で会社からクルマで行っても５分（道がすいていれば）ほどしかかからない店をのぞきに行きました。ま、当然と言えば、当然でしょうが、オンエア直後、１〜２日くらいはいつもとさほど変わらない状況でした。でも、内心ちょっと嫌だなー、という感じはありました。ひょっとしてこのまま…？なーんて。

それから数日が経ちました。私はオンエア直後からは、店に行っていませんでした。またあのスポンサーに何か言われると嫌だから、だったという気持ちもあるし、客が来ていなかったら、自分もがっかりするから、というのが正直な気持ちでした。そんなある日、営業担当が制作局（私のいたセクション）に来て「いやー、すごいことになってるよ！」と言いました。

早速、店に向かいました。到着した店で私が見たものは、店から溢れた客が行列をつくって順番待ち（入店待ち？）をしているシーンでした。おっ！すごいじゃん！こんなにお客さんが来てくれているの？しかも平日なのに…。胸をなで下ろしたのと同時に、ＣＭの影響力の強さに驚きました。これで責任を取れとは言わないだろう、と安心しました。

以来、そのカメラ店のテレビＣＭを７〜８本つくりました。やがて売り上げは目標の４０倍を記録しました。そしてついに坪単価売り上げの日本記録をつくってしまいました。（御徒町のアメ横にあった店の記録を破りました）あれほどコピーに反対していたスポンサーも、担当営業も「あのコピーは自分が考えた」とみんなに吹聴していました。おいおい、大反対してたじゃないか…、よく言うよ。スポンサーは講演に引っ張りだこになり、得意げにコピーのことを語っていたそうです。

最後はスポンサーと編集室で大喧嘩をして私は降板しました。私と演出で完成させたＣＭを、再編集してくれと言われたので断ったのです。もう、私はフリーになっていました。だから思う存分喧嘩しても良かったのです。（そんなことはないねホントは）仕事が減っても、ポリシーを優先させたかったのです。その時の会話「何でスポンサーの言うことが聞けないんだ！」「何がスポンサーだ！偉そうに言いやがって！おまえの仕事なんかやったって、ぜんぜん金になんか、なりゃしないんだ！」（事実、私の企画料、プロデュース料は信じられないほど少なかった）

編集室のオペレーターは肩を震わせて笑っていました。今まで、編集室でスポンサーにあんなことを言った人は初めてで、すっごくうれしかったし、面白かった、と彼は言っていました。それからも事務所にはＦＡＸで企画の依頼が来ていましたが、すべて無視しました。

数年後、スポンサーは突然倒れ、この世を去りました。私とほぼ同じ歳であった彼の死はショックでした。（そのことを私はしばらく知らなかった）ここでスポンサーと表してきた人は、そのカメラ店の息子さんです。お父さんが社長さんで、息子さんが専務。その専務が窓口となって、私たちと仕事をしてきたのです。

今でも、自分の手がけた広告の反響が気になるのは、このスポンサーを担当したからです。後藤さん、ありがとう。あなたのおかげで私は成長できました。　　　　　（まだ続く）

コメント 11

もりけんさんの信念ある仕事っぷりに心から大拍手です。
まだまだ、続くのですね。

20年前あの店でワープロ買いました。無愛想でも安いほうがよかったから・・・少しはもりけんさんに協力できたようでうれしいわ。
by 通りすがり (2007-06-25 02:34) 

えええ、亡くなってしまったの！？
えええ、降板しちゃったの！！？？
えええ、自分が考えたなんて嘘つかれたの！！！？？？
（すみません、遡ったびっくりの仕方で。）
人の世の儚さを感じました。
でも、キャッチコピーは残りますね、永遠に。
by めぎ (2007-06-25 05:50) 

いやはや、今日は笑えないです。
by きりきりととと (2007-06-25 07:19) 

私は幸いにもその業界の人間じゃないから、
でも周波数が遠くもない仕事だからか、
今朝、非常に非常に読後感が良いです。
そして、
＞編集室のオペレーターは肩を震わせて笑っていました
ここがとくに好きです。
by もん (2007-06-25 07:43) 

初めてコメントさせていただきます。コピーライター養成講座でお世話になりました。クリエイティブがスポンサーになかなか受け入れられないという話は他の方からも聞きましたが先生ように勢いのある喧嘩をした人はなかなかいないと思います！クリエイティブ命！という感じですね
by tsukamoto (2007-06-25 13:02) 

ワタシも門外漢なので　ただただじんわり……
ああ　人生　ドラマですね。
おもしろい　とてもおもしろいです
by (2007-06-25 13:37) 

通りすがりさん、
いや、あの…。ちょっとかっこよく書きすぎました。しかも、スポンサーとの喧嘩はこれ１回じゃないですし…。出入り禁止は２〜３回ほどくらいました。

めぎちゃん、
そうなんですよ。思いもよらないことが起こるんですね、世の中って。でも、得てしてそういうものなんだ、という言い方もできてしまう。うーん、。あ、それから、ヒットした広告（キャンペーン）などは必ず「あれは俺がやった」という人がけっこうな数出てきますよ。


hypermomberさん、
同じ業界ですもんね。面白いし、好きでここにいるのだけれど、複雑な気持ちになることも、かなり多いですよね。


もんちゃん、
実は、あの会話は少し省略してあるんです。「こっちは金を払ってるんだぞ！」と言いやがったので「何がスポンサーだ…」になったのです。だから実際にはもっと長い言い合いが続いていたんです。その時の私の切り返しが非常に良かったらしくて、彼はかなり気にいてくれました。


tsukamotoくん、
そんなー、命なんてことないっすよ。命は「お酒」ですよー。喧嘩もね、私はスポンサーともしているけど、代理店時代の社内でも何度かやっていますから…。ただの瞬間湯沸かし器です。


mompeliちゃん、
mompeliちゃんに比べたら、私なんて平凡が服を着て、お酒を飲んでいるようなものですよー。あ、ところで、ナイショでめぎちゃんのアイコンになっているぬいぐるみはなんだか教えてくれない？
by もりけん (2007-06-26 00:45) 

↑　こんなところで人に聞いちゃダメ！
私のアイコンについてはどうぞこちらを。
http://blog.so-net.ne.jp/megimigi/2006-10-16-1
http://blog.so-net.ne.jp/megimigi/2006-11-07
（自分のおうちの宣伝でごめんなさいね。ご覧になったら後で消しますね。）
by めぎ (2007-06-26 06:02) 

……だそーです～（笑）かわいいですよね☆
by (2007-06-26 08:11) 

めぎちゃん、
すいません…。無意識のうちにmompeliちゃんに聞いてしまいました…。どうやら、無意識というのはフロイトが…。あ、ちゃんと見ました。でも消さないでください。ダメ！という言葉がうれしいから。


mompeliちゃん、
怒られちゃいました…（笑）。あやうくmompeliちゃんも巻き込まれるところでしたね、すいません。でも、どうしてこんなにうれしいのでしょうか？不思議です。
by もりけん (2007-06-26 14:46) 

あ、見てくださったのですね～
しかも、もんちゃままで来てくださった模様。
みなさま、ありがとうございまーす♡

そうです、無意識って言うのはフロイトが・・・
では消さずにおきますね♪

そうそう、マウスはDie Maus、つまり、女性名詞。
マウス君じゃなくて、マウスちゃんです。
by めぎ (2007-06-26 18:52)