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従兄弟のお葬式 [思い出・雑感]

まぁ、しごくあたりまえのことではあるけれど、すっかり街の

景観が変わってしまったことに驚いた。

 

それは今から50年近くも前のことだ。私が小学5年生の時に、

大学生の従兄弟が死んでしまった。その従兄弟は「民茂さん」と

いう名前だった。

 

ちょうどその頃、民茂さんのお父さんも痛風で入院していて、

民茂さんは自分もかなりお腹が痛かったのに、言い出せなかった

らしい。腹膜炎をこじらせてあっけなく死んでしまった。

 

民茂さんは、私の母親が入院している時に、私が落ち込んでいる

と思い、映画に連れて行ってくれた。私が落ち着きがないので

大層恥ずかしかった、と後で母親にこぼしていたらしい。

 

その時に見た映画は忘れもしない大映の「眠狂四郎魔生剣」と、

「悪名シリーズ」(題名は失念した)だった。確かに今から思えば

市川雷蔵も、勝新太郎も、田宮次郎も、かっこよかった。いや、

あくまでも、それは今振り返って改めて考えてみれば、ということ

でだ…。

 

さすがに小学4年生の私には、それらの映画は踏み入れてはいけない

世界の匂いがした。眠狂四郎の1シーンでは裸の女性がこちらに

お尻を向けて横たわっていた。ざわざわした気持ちが湧いてきて、

きっとそういうものに、いつか私は興味津々になって、のめり込んで

いくようなことを予想して、何とか回避しようとした。

 

女の人の匂いが、女の人のからだが、女の人の声が、やがて私は

大好きになるのだろう、という妙にはっきりした自覚が生じた。

 

私は大人しく席に座っていることができず、ふらふらと映画館内を

歩いた(らしい)。それが、民茂さんには恥ずかしかった、という

ことだ。

 

そんな出来事から少し経ち私の母親は退院した。しばらくしたら

訃報が届いた。あの、はにかんだような笑顔で、小学生の私には

かなり強烈な映画を見せてくれた民茂さんは、消えてしまったのだ。

 

お葬式で、私は民茂さんの妹の「時子さん」に酷いことを言ってしま

った。「ねぇ、兄妹が亡くなるって、すごく悲しいの?」と…。

私はあんなことを聞いてしまった自分を、今でも悔やんでいる。

 

とても意地の悪い、ひねくれた子どもだった私は、自分の家庭とは

違い、私立の中学から進学していくそこの従兄弟たち3人が、おそ

らく羨ましかったのだろう。そんな屈折した気持ちもあったのだろう、

酷いことを言ってしまった。

 

ごめんね時ちゃん。あれから私は40数年経った今でも、そのことを

気にしているんだ。

 

名古屋の繁華街に民茂さんの家はあった。最近用事があってその辺りを

本当に久しぶりに歩いた。少し回り道をして、かつて民茂さんの家が

あった場所へ行ってみた。そこはコインパーキングになっていた。

 

またあの時のお葬式のことを思い出した。階段を上ったところに、民茂

さんの部屋があって、そこには年上のお兄さんの独特の大人びた世界が

広がっていた。置いてある本も、掛けてある服も、聞いているレコードも、

みんな垢抜けて見えた。

 

街はすっかり変わってしまった。私もいつかすべての思い出を無くして

しまうのだろうな、と思った。


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