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飼っていた猫の話 [思い出・雑感]

確か22歳くらいの頃だったと思う。1匹の猫を飼うことにした。
知り合いが飼っていた猫が子供を生んだので、もらってほしいと
言われ、あまり深くも考えずに飼うことにした。

当時は木造のアパートに母親と暮らしていたが、ほどなく取り壊される
だろうということで勝手に飼ってもいいことに決めた。とはいえ、
別段猫が好きであったわけではない。今でもそうだが、総じて生き物が
好き、と言うことは前提であったが、いわゆる私は猫が大好き、とかと
いったようなことでは決してなかった。

当時はバイト先の軽自動車を借りていたので、それで猫をもらいに行ったのだが、
いかにも小さくてはかない感じがした。片腕でハンドルを持ち、もう片方の
腕でその子猫を持って運転して帰ろうとした。そのとき、私はセーターを着て
いたのでその子猫が爪を立ててセーターに登ってこようとするので、運転中は
けっこう大変だったことを覚えている。

母猫の名前は「ちょっと」だった。だから飼い主はその猫を呼ぶときには、
『ちよっと、ちょっと』と言っていた。その子どもだから、みんなは「ちょっと」
の子どもだから「もうちょっと」と勝手に決めていた。当然、その名前は
却下して「玉男」(オスだった)とした。

さて、その猫と暮らし始めたのだが、いやはや賢いこと。猫がこんなに頭が
いいとは思っていなかったので驚きの連続だった。例えば私がコインランドリーに
行こうとすると、後をついてくる。もちろんリードも何も付けてはいない。
時々寄り道はするものの、私が見えなくならない程度に戻ってきてはずっと
付いてくる。そしてコインランドリーにいっしょに入り、私が洗濯のセットを
終えると、またまたいっしょに出て家まで帰る。これはまるで犬だなぁ、と
私は思っていた。

ほどなくアパートの取り壊しが決まったのでマンションに引っ越しをしたのだが、
先ずオシッコは人間の様子を観察していたのか、洋式便器にまたがってふんばって
いたがどうやら彼には無理であったらしくしょげていた。そこで私が金だらいを
トイレに置いてやって「ここでしてみたら?」と声をかけたら、ものの見事に
金だらいの縁に足をかけてオシッコをするようになった。

うんちはバストイレがひと部屋になっていたので、そのタイル張りの床の上で
したので、そのままトイレットペーパーで取ってトイレに流し、した場所を
シャワーで流した。オシッコは金だらいの中にしたものをトイレに流し、
金だらいを洗うだけだった。

紙を丸めたものを投げてやるとよろこんでくわえてきては、また投げてほしい
と目で訴える。これもまた犬?じゃないの、あんた!?という感じだった。
やがて私がデザイン事務所に勤めるようになりなかなか家に帰ってこなく
なると、彼は私の帰宅を玄関で待つようになった。おいおい、忠犬ハチ公か?

その頃住んでいたマンションは5階だったのだが、玉男君はいつも下駄箱の
上に座り込んで私の帰りを待っていた。そして私の姿を見つけると(下駄箱の
ところに窓があって、外の様子を見ることができた)大喜びでかなり大きな
声で鳴いた。そして、玄関で出迎えてくれた。足音なのか、匂いなのか、彼は
私が帰ってくるのがなぜだか分かるようだった。

木造アパートに暮らしていたときにゴルフの練習をしていたおじさんに近づき、
かなりの力でゴルフクラブで叩かれたようで、以来びっこになっていた。だから
からか人間不信になっていた彼は、私だけしか信用していなかった(ように見えた)。

寒い季節になるとざらざらの舌で私の顔をなめ、ふとんに入れてくれというので
よくいっしょに寝ていた。しかし8歳の時、彼は病気になった。黄色脂肪症という
病気だ。母親が彼に与え続けた竹輪が原因だった。私はキャットフードを食べさせ
ていたのだが、母親はよく竹輪を食べさせていた。その竹輪には水銀がかなり入って
いるようで、人間は身体が大きいのでさほどの影響はないらしいのだが、猫のように
身体が小さな動物にはずいぶんと堪えるらしい。

注射や点滴をしたがもうダメだった。きれい好きだった玉男君はトイレに向かう
途中で歩けなくなり、お漏らしをした。やがて目が濁ってきてほとんど動けなく
なった。もちろん私も相棒の寿命が尽きることを覚悟した。思えば、私が人生の
岐路に立ち、あれこれ悩んでいたときに、彼はそんな私を見続けてきた。そして、
今風に表現するのであれば、癒してくれていた。(後でそう思った)

すっかり動けなくなった彼は、籐製のかごの中にタオルを敷かれてじっとしていた。
嘔吐した吐瀉物がすっかり色あせた身体にへばりついていた。それでも玉男君は
その状態のままで生きていた。そして彼がとうとう天に召される前日に信じられない
ことが起こった。玉男君が私の横に寝ていたのだ。

しかも私はベッドで就寝していたので、彼はかごから歩いてベッドまで来て、
さらにベッドに上がろうとしたら、かなりの高さへ飛び上がらなくてはいけない
はずだ。私は母親に聞いた。「夜、猫をベッドに上げた?」と。

母親はもちろんそんなことはしていない、と言った。そして、その日の
夕方に彼は死んだ。彼にとって私は何だったのだろうか?物言わぬ生き物に
聞くわけにはいかない。たかだか猫の話。なんとなく思い出して書いてみた…。


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めぎ

私が東京で下宿していたときにそのうちで飼われていた犬は、16歳まで生きましたが、最後の最後、やっぱりほとんど歩けなくなってお漏らし状態だったけど、死ぬ間際にいつもトイレに使っていたお風呂場に行って用を足し、戻ってきてから死にました。動物って素晴らしい本能を持っているなあと感心しました。
そのうちでは猫も飼われてましたが、相棒の犬が死んでから程なく病気になり、それから全くものを食べようとしませんでした。自ら死のうとしているかのようにも見えました。その猫は、生まれてすぐに捨てられてほとんど息絶え絶えになっていたのをその犬が発見して、犬が飼い主に知らせたことがきっかけで飼われたのです。飼い主によると、犬はその当時猫につきっきりで看病していたそうです。命の恩人の犬が死んで、猫は後を追ったのかもしれません。
by めぎ (2007-11-28 06:30) 

きりきりととと

オチがあるのかとおもったら、そのまま行ってしまった。

それにしても読ませますねー、流石です。
by きりきりととと (2007-11-28 08:26) 

もりけん

めぎちゃん、
なんだか人間より動物の方が…。でもその犬と猫の話、物語になりそうですね。いやー、いい話!こんど友だちに話してやろっと。


hyperbomberさん、
ありがとうございます。私はあまり感情移入した文章が好きではないのです。乾いた視線で客観的に、でも、何かを感じてもらえるように…、なーんて。偉そうにすいません。
by もりけん (2007-11-28 16:44) 

きりきりととと

>感情移入した文章

ああああ、分かります。
僕も嫌いです、そういう暑苦しい文章は。
by きりきりととと (2007-11-28 17:36) 

みかまん

これは「読ませるいいお話」でした。
でも表現の裏側にちゃんと真実があるから、
もりけんさんの人も伝わってくる^^
子供の頃、昔から飼ってた猫が家出して10年もたってたのに、死ぬ前に姿を見せた事があるの。甘えて母に寄り添って、また姿を消して。
私はベタッベタした可愛がり方はできないタイプ。スキでスキでなんてのでもない。でも、飼ってた犬も、今いる猫も、「人と心が通う」ってことを感じさせてくれたかな。動物だから..でも動物だからのシンプルなこうした関係、
ヒトも時にはそうでありたい。
by みかまん (2007-11-29 03:18) 

もりけんさん こんばんは
玉男くんのお話し じんわり読ませていただきました
玉のような子猫ちゃんだったのでしょうか
もりけんさんのようなネコちゃんだったのでしょうか
竹輪がそんなにコワイものだったのはしりませんでした
しかしネコを飼ったことがないワタクシ
「金ダライの縁に足をかけておしっこをする」というところで
たらいに足をかけた時点で タライはひっくり返ってしまうのではないか 
だからといって自分がタライの中に入って足を縁にかけたら 
中の足がおしっこでぬれてしまうんじゃないか 
などと色々考えてしまい……ああスミマセンこんなにいいお話なのに…
by (2007-11-29 08:09) 

めぎ

↑ mompeliさんにnice!!
うん、実は私も、この猫ずいぶん器用だなあってちょっと思ったの。
by めぎ (2007-11-29 19:29) 

もりけん

みかまんさん、
その猫の話もすごいですね。10年ですか。動物の方が恩を忘れないってことですかね。それとも人間がすぐ忘れてしまいすぎるのですかねぇ。



mompelimちゃん、めぎちゃん、
いやー、玉男君のおしっこでいろいろと悩ませてしまったようで申し訳ありません。(笑)彼が使用していたのは(直径30センチくらいでしょうか)昔ながらの金色の金だらいで、さほど大変そうでもなく器用に両足をその縁にかけて用を足していましたよ。その金だらいは朝顔を途中で切ったみたいな形状で。高さ(深さ)は10センチくらいでした。私はすっかり見慣れていたのであまり何とも思わなかったのですが、やはり想像しにくいのでしょうね。ただ、
降りる?時にたまに片足を濡らして振っていたのは覚えています。
by もりけん (2007-11-29 21:36) 

>両足をその縁にかけて用を足し……
!?うしろ足二本を あの割合に軽いタライの縁にかけておしっこしていた ということでしょうか。え~ネコを飼ったことはありませんが ネコを飼っているオトモダチはぼちぼちいて まあときには彼らが用足ししている姿も見かけたことはなくはないのですが ンムムムム。玉男くんは本当に器用なネコちゃんだったのではないでしょうか。それって洋式便座の上にのぼってしゃがむよりムズカシイような気がします。そして「ここでしてみたら?」と提案をしてみるもりけんさんもすごいです。動物もこういうものと決めつけないで提案してみると色々なことができるかもしれないですね。 
by (2007-11-30 00:10) 

もりけん

mompeliちゃん、
きっと狐につままれたような感じなんでしょうね。もう少し詳しく描写しますね。先ず金だらいに入り込みます。それから縁に片足を乗せますが、正確に言えば、脚の先っちょ(爪があるところ)を縁にかけていました。脚をかける位置は彼には分かっていたような気がしますが。(お相撲さんが四股を踏むときみたいに脚を上げます)で、もう片方の脚も同じように脚の先っちょのところを縁にかけます。ここで彼はバランスを微調整します。この時点でのかっこうはカエルの静止状態?のような姿勢です。全くと言っていいほど揺れはありません。このスタイルでオシッコをいたします。オシッコがすむと、そのままぴょん、という感じで前の方に軽く飛んでおしまい。洋式トイレも同じように試みていたのですが、どうしてもダメだったみたいです。理由は聞いていないので分かりませんが、飼い主的には見てみたかったです。玉男君は猫離れしていた猫だったので、この話をするとみんな「うそ〜!」って確かに言いますね。実はここでは書けないような面白い(でも絶対に書けない!)話もあるんですよ。
by もりけん (2007-11-30 00:37) 

めぎ

眠い頭で猫の体制を想像してみました・・・うーむ。
猫って、器用なんですねえ。いや、玉男君が器用なのかしら。
運動神経がすっごくいいんでしょうねえ。
まちがって花瓶を倒しちゃうなんてこともなさそうですね。
by めぎ (2007-12-02 08:52) 

カミノです。

うちも以前実家で犬を飼っており、とてもかわいそうな死に方をさせてしまったこと思い出しました。

捨て犬出身のその彼のことを「ジョン」と私達は呼んでいました。
小さい頃に私が近所の野原から拾ってきた彼は、10年目の春、オスだというのにみるみる腹部が大きくなってきたかと思ったら、食欲もなくなりどんどん衰弱していきました。そしてしばらくたったある日、家族がみんな帰宅したのを見届けたかのように、家族の側で静かに眠るように逝ってしまいました。

バカだったけど、忠誠心に溢れていたジョン。
家族の食べ残しの残飯の餌を、いつもおいしそうに喜んで食べていたジョン。
おかげで口臭も臭かったけど、いつも私が帰宅するたびにぺろぺろ舌を出して喜んでくれたジョン。

動物ってのは、どうしてここまで疑うことなく私達人間を愛してくれるのでしょうね。それなのに、彼らの一途な思いに、私達は自分の気分次第で可愛がったり、邪険にしたり勝手ですよね。

というわけで、今回の話はつい涙ぐみながら、さらに「ジョン」のことを思い出しながら読ませていただきました。
ほんと、今回も純粋に良い話で!もりけんさんの人格に影響を及ぼした優しい人や生き物のテーマの話今後も楽しみにします!
by カミノです。 (2007-12-02 22:13) 

もりけん

めぎちゃん、
器用…?なにぶん、ほかの猫を知らないのでわからないのですが…。でもこんなことがありました。彼はかなりの肥満だったのですが、お風呂のふた?の上に乗っていて(冬に暖かいので)玉男君自身の重さで
それがたわんでしまい、湯船にはまったことがありました。ずぶ濡れで必死の形相でリビングに駆け込んできました。


カミノさん、
ねぇ、本当に「けなげ」ですよね。あんなに飼い主のことを純粋に大好きでいられる彼らの気持ちはどこから生まれてくるんでしょうね?
by もりけん (2007-12-04 02:21) 

engrid

玉男君はもりけんさんのことを 親・無私の人…この世で只一人の話せる人…そう思ってたんですよ、もう 断言しちゃいます!

勿論 玉男くんはネコであるわけが無い
ネコを越えています、はるかにです。。。
で何かって  共同生活者かな
by engrid (2007-12-04 17:39) 

もりけん

engridさん、
おっしゃるとおりだと思います。たったひとり、心を許せる人間?だと思っていたに違いありません。それについてもいくつものエピソードがありますから。
by もりけん (2007-12-05 03:31) 

tsukamoto

ご無沙汰しております。
こころ温まるお話ですね。最近パソコンを開くとリクナビからのメールばかりで・・・ほっとしました。
「ほんやら堂」という会社の羊の抱きまくらを連想してしまいました。

ほんやら堂
http://www.honyaradoh.com/00300/best10.html
by tsukamoto (2007-12-07 20:23) 

もりけん

tsukamotoさん、
元気ですか?私は自主プレとかでなんやかやと忙しくしています。今どき、私くらいのコピーライターは待っていても仕事は来ませんからねぇ。
by もりけん (2007-12-10 14:06) 

もりけんさん お元気ですか
良いお年をおすごし下さいね~☆
by (2007-12-30 16:10) 

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